アレクサンダーテクニーク

【質問】身体全体に意識を向けようとしても難しいのですが、どうすればよいでしょうか


こんにちは、川浪です。

レッスンを受講されている方から、次のような質問をいただきました。

「身体に意識を向けるとき、基本的に全体を考えると思うのですが、部分ごとに注意すべきこと

(指の長さ、腕は小指側につながっている、肩甲骨と肩甲骨など)

が多くなってきたので、どのように意識すべきか、難しくなってきたように感じられるのですが、何かシンプルに考える方法はないでしょうか」

さて、この質問にお答えする前に、まずは、ふだんのレッスンでお伝えしている

「身体に意識をむける」

ということについて説明します。

まずレッスンの前提として「身体は頭で考えた通りに動こうとする」という考え方があります。

もう少し詳しく説明すると、頭のなかで、自分の身体はこんな風になっている、というイメージがあるんですね。

例えば、自分の身長はこれくらい、とか、こんな姿勢をしている、とか。

それが、現実とマッチしていれば、なんの問題もありません。

しかし、ほとんどの場合、現実とイメージに、ズレが生じています。

ズレが生じているときに、現実ではなく、そのズレたイメージを優先させて、身体を動かそうとします。

そうすると、思ったように身体が動いてくれなかったり、意図していないのに余計な力が入ってしまったり、ということが起こってしまうわけです。

そのイメージのズレを修正することで、動きが改善しますよ、自分の身体の正しいイメージを持ってくださいね、ということで「身体に意識を向ける」という表現を使います。

正しいイメージを持つために、解剖学に基づいて、骨格がこうなっているとか、筋肉がこうなっている、という説明をしていきます。

この方の場合は、すでに、指や手、腕とのつながりなどの、たくさんの説明を受けているのですが、それらを同時に意識することが難しい、と感じられているわけです。

さて、どうすればいいか、答えを先にいうと、、、

「複数箇所に同時に意識を向けるのは無理」

です。

無理なものは、どれだけ頑張っても無理です。

考えてみてください。

正しい身体のイメージを持つために、

まず頭に意識を向けて、次に背骨、肋骨、骨盤、腕、脚、、、

と順番に考えていこうとしても、だいたい二つ目くらいで、もう無理、となるはずです。

これは、仕方のないことです。

では、どうすればいいかというと、そもそもの考え方を変える必要があります。

「意識を向ける箇所を増やす」

ではなく

「意識を向ける範囲を広げる」

というのが正解です。

例えば、右手と左手を同時に見る、とします。

この時に、右を向きながら、左も向く、というのは無理ですよね。

そうではなくて、右手も左手も、ひと目で見られるように、視野を広げれば、同時に見ることができます。

人間の視野はかなり広いので、そうとう離れていても、ひと目に収まるはずです。

身体に意識を向ける、というのも、これと同じです。

頭、脊椎、肋骨、骨盤、腕、脚、、、

と、バラバラに考えるのではなく、それらを全て含んだ、一つの身体として、意識を向けることで、身体全体に意識を向けることができるのです。

じゃあ、なぜバラバラに意識を向けてしまうかというと、残念ながら、説明の都合上、そうなりやすいのです。

身体は全体で一つの役割を担っているとはいえ、説明するときにはどうしても、一つずつしか説明できません。

例えば、今日は指の話、今日は腕の話、、、という風に。

詳しく説明するためには、部分を取り出して、説明するしかないのです。

実際には、部分の話もしつつ、全体に意識を向けるという説明も、同時並行でするのですが、どうしても最初のうちは、部分に意識が向きやすい、というのが、一般的な傾向です。

レッスンでは、様子を見ながら、部分の話と全体の話を、行ったり来たりしながら、進めていきますが、この方の場合は、ご自身で実践される中で、このことに気づかれたようです。

今回の内容は、とても重要な話です。

演奏をする時に、身体のことを考える、といっても、演奏に直接関係している部分(多くの場合、手や腕。管楽器であれば口など)のことしか、考えていない、というのが一般的な傾向です。

ほとんどの方が、身体全体に意識を向ける、といっても、ピンとこないのではないでしょうか。

しかし、現実として、身体は全体で一つの機能を担っています。

レッスンでも、背中や脚の話をして、演奏が変わると「こんなところが演奏に関係しているとは、思いもしませんでした」という反応を、何度も見てきました。

まずは、身体全体を使うんだ、という考え方を持っていただき、その際に、今回の内容を思い出していただければ、と思います。