アレクサンダーテクニーク

トラとイチローと胸式呼吸について


こんにちは、川浪です。

長年の読者さんは、よくご存知かと思いますが、、、

胸式呼吸はダメではありません。

歌でも、管楽器でも、それ以外の楽器でも、なんとなく「腹式呼吸は良くて、胸式呼吸はダメ」と思っている方が多いですが、全くの誤解です。

むしろ、胸式呼吸を積極的に行った方が、呼吸が改善する方がほとんどです。

(今回の本題は、別の話なので、詳しい説明は省略します)

先日のレッスンで、この話をしたときに、生徒さんから面白い話を聞きました。

その生徒さんが、ある発声の本を読んだときに、胸式呼吸について、このような説明があったようです。

「トラが狩りをする時には、胸式呼吸はしない。なぜなら、胸式呼吸をすると、前脚の周りの筋肉が緊張して、うまく動けないからだ。だから、人間が発声する時も、胸式呼吸ではなく、腹式呼吸をするべきだ」

その生徒さんは、この話を読んで、「なるほど」と強く印象に残ったそうです。

あなたは、この話をどうおもいますか?

僕はこう思いました。。。

「トラの狩りと、人間の発声って、関係なくない?」

おそらく、この話だけを聞いたら、僕と同じ感想を持つ人は多いと思います。

しかし、この話の元ネタは、その界隈ではそこそこ有名で実績もある方の本だそうです。

そうすると、前後の文脈なども含めると、それなりに説得力があったのではないかと思います。

だから、なんとなく読んでいると「なるほど」と納得してしまうのも、無理はありません。

例えば、この場合はどうでしょうか?

あるインタビューで、イチロー選手がウェイトトレーニングについて持論を語っていました。

それによると、イチロー選手はウェイトトレーニングをしないそうです。

その理由の一つとして「トラとかライオンはウェイトトレーニングをしない」ということをあげていました。

これを初めて聞いたときは、僕も「なるほど!」と思ってしまいました。笑

でも、よくよく考えると、トラやライオンは野球をしませんよね。

それ以外の理由については、示唆に富む内容もありましたが、やっぱりトラとかライオンは関係ないんです。

このように、よくよく考えると「関係ないよね」というような理由付けが、歌や楽器のレッスンにはあふれています。

もちろん、理由付けが間違っていても、それで成果が出るなら問題ありません。

(事実、イチロー選手はものすごい成績を残しました)

しかし、今回のように、「発声のときに、胸式呼吸を使ってはいけない」という明らかに間違っている内容を、なんとなくそれらしい理由付けで語る人が、本当に多いです。

それを語っている本人に悪気はないかもしれませんが、それを信じて、演奏がうまくいかないのでは、困ってしまいますね。

ですから、世の中に演奏指導はたくさんありますが、こと身体の使い方に関しては、それをそのまま、素直に信じるのではなく、一度たちどまって「これって本当に正しいのかな?」と考えてみる癖をつけてください。

それを判断する基準は、人間の身体の構造や仕組みにマッチしているか、ということです。

そして、正しい身体の使い方を学べば、あなたの演奏は、間違いなく向上します。